「へそくり」の語源は?麻を繰って貯めた内緒のお金の歴史
「へそくり」の語源は体の臍(へそ)ではない
「へそくり」と聞くと「お臍(へそ)に隠したお金?」と想像しがちですが、語源は体の部位とは無関係です。有力とされるのは、麻糸を巻いた糸巻き「綜麻(へそ)」を繰る(操る)作業を指す「綜麻繰り」が短くなって「へそくり」になったという説です。
「綜麻(へそ)」は麻糸を巻いた糸巻きのこと
「綜麻(へそ)」とは、紡いだ麻糸を環状に幾重にも巻きつけた糸巻きのことで、「苧環(おだまき)」とも呼ばれます。麻の茎の皮から取った繊維(苧=お)を績んで糸にし、それを綜麻の形に巻き取る一連の作業が、江戸時代以前の女性たちの重要な手仕事でした。
女性たちの内職だった「綜麻繰り」
江戸時代、農家や町家の女性たちは家事の合間にこの綜麻繰りをして糸を作り、わずかな収入を得ていました。この内職で稼いだお金は夫や家族の目に触れることなく、こっそりと手元に貯めておくものだったとされています。
内職の稼ぎがなぜ「内緒のお金」になったのか
家計を預かる立場でありながら、綜麻繰りの稼ぎだけは女性個人のものとして扱われる慣習があったと考えられています。「自分の裁量で使える・隠しておける小さな収入源」という位置づけが、「内緒のお金=へそくり」という現代の語感につながりました。
「綜麻繰り金」から「へそくり」への省略
もとは「綜麻繰り金(へそくりがね)」と呼ばれていた言葉が、いつの間にか略されて「へそくり」という短い形に定着したと考えられています。仕事の名前が、稼いだ金銭そのものを指す名詞へと意味を広げていった例です。
のちに当てられた「臍繰り」という字
「綜麻繰り」という語源が忘れられていく中で、後に「臍(へそ)繰り金」という当て字が広まりました。臍は体の中心にある目立たない部位であり、「こっそり隠す」というイメージにもうまく重なったため、この当て字が一般に定着したと考えられています。
高知県に残る「オゴケゼニ」という方言
麻の繊維を入れておく箱「苧笥(おごけ)」にちなみ、高知県では隠し貯金を「オゴケゼニ」と呼ぶ地域があります。苧績みの仕事自体が廃れた後も、道具の名前を借りた「隠し金」の呼び方として残った例で、「へそくり」と発想の根が同じ方言といえます。
海外にもある「隠し貯金」を指す言葉
家庭内でこっそり貯めるお金を指す言葉は他言語にもあります。フランス語の「bas de laine(ウールの靴下)」は靴下の中に隠した虎の子を意味する慣用句です。英語の「mad money」はもともと1920年代、女性がデート中にもしもの時のために持っておく緊急用のお金を指した俗語で、こちらは夫婦間の隠し金というより自衛のための予備費という性格が強い言葉です。
へそくりはどこに隠す?定番の隠し場所
昔から定番のへそくりの隠し場所として知られているのは、箪笥の引き出しの奥、本の間、台所の缶の中、縫い物箱の底などです。現代では通帳・カード類を別口座に分けるのがデジタル版へそくりとも言えます。
現代語としての「へそくり」
現代では専業主婦が少なくなり、家計管理のスタイルも変わりましたが、「へそくり」という言葉はユーモラスな響きとともに生き続けています。「へそくりが見つかった」「へそくりで旅行に行く」など、ちょっとした秘密の楽しみを表す言葉として、麻糸を繰った女性たちの内職の記憶を今に伝えています。