「脾臓(ひぞう)」の語源は?「脾」という字と「秘蔵」との語呂合わせ


「脾臓」とはどんな臓器か

脾臓(ひぞう)は左側の肋骨の下(上腹部左側)に位置する、握りこぶし大の臓器です。血液をろ過して古い赤血球を分解・除去する役割、血小板や白血球を貯蔵・供給する役割、リンパ球(免疫細胞)を産生・活性化する役割を担います。平時は目立たない臓器ですが、感染症・外傷・血液疾患の際に急激に腫れる(脾腫・ひしゅ)ことがあり、外傷による破裂は緊急事態となります。「人体の中で最も地味な臓器のひとつ」とも言われますが、免疫と血液の調整に欠かせない存在です。

「脾」という漢字の成り立ち

「脾(ひ)」は「肉月(にくづき)」に「卑(ひ)」を組み合わせた形声文字です。「肉月(⺝)」が「身体・肉体に関わる語」という意味を表し、「卑(ひ)」が音(読み方)を示します。「卑」の音読みは「ひ・び」で、「肉月+卑=脾(ひ)」という形声の構造になっています。「卑」には「低い・下に位置する・身分が低い」という意味もありますが、「脾」の字義においてはあくまで音符として機能しており、「低い」という意味は直接反映されていません。

漢方医学における「脾」

漢方・中医学(中国伝統医学)における「脾」は現代解剖学の脾臓とは異なる概念を指します。中医学では「脾」は消化・吸収・気血の生成を司る臓器として、現代でいう「脾臓+消化器系(胃腸)」を総合した機能系を指します。「脾虚(ひきょ)」は消化機能の低下・疲労・むくみなどを引き起こすとされ、漢方治療において重要な概念です。西洋解剖学が日本に入り「脾(ひ)」という字がspleen(脾臓)の訳語として定着しましたが、漢方的な「脾」の概念とは意味がずれているため、医学教育では混乱が生じることもありました。

「ひぞう(秘蔵)」との語呂合わせ

「脾臓(ひぞう)」は「秘蔵(ひぞう)」と同音で、「秘蔵っ子(ひぞうっこ)」「秘蔵品(ひぞうひん)」の「秘蔵(大切にしまっておく)」と完全に同じ読みです。この偶然の一致から、「脾臓は身体に秘蔵された臓器」「脾臓は隠れた縁の下の力持ち」というたとえ話が語られることがあります。実際、脾臓は他の臓器と比べて一般に知名度が低く、普段の日常生活で意識することがほぼない臓器ですが、血液の貯蔵・免疫機能という重要な役割を持つ点で「秘蔵」のイメージと重なります。

脾臓の主な機能

脾臓の主要な機能は大きく三つに分けられます。一つ目は「血液のフィルター」としての機能で、老化・損傷した赤血球を取り除いて鉄分を回収します。二つ目は「血液の貯蔵庫」としての機能で、血小板・赤血球の一部を貯蔵し、出血時に血液中に放出します。三つ目は「免疫機能」で、抗体を産生するB細胞・T細胞などのリンパ球が集まり、血液中の病原体に対する免疫応答を行う場となります。これらの機能から、脾臓は「免疫・血液の総合管理センター」と言える臓器です。

脾臓がなくても生きられる?

医学的に脾臓は摘出しても生命維持に直接支障がない臓器のひとつで、外傷(交通事故など)や血液疾患の治療のために摘出される場合があります(脾摘出・ひてきしゅつ)。ただし脾臓摘出後は免疫機能が低下し、特に肺炎球菌・髄膜炎菌などによる重篤な感染症(圧倒的脾摘後感染症・OPSI)のリスクが高まります。このため脾摘出患者にはワクチン接種・予防的抗菌薬投与が推奨されます。「なくても生きられるが、あった方がよい」という点で脾臓は免疫の補助装置的な存在です。

脾腫(ひしゅ)と気づきにくい異常

脾臓の異常の中で特に多いのが「脾腫(ひしゅ)」、つまり脾臓の腫れです。感染症(マラリア・EBウイルス感染症・敗血症など)・肝硬変・白血病・リンパ腫などで脾臓が肥大します。通常の脾臓は肋骨の下に隠れていて触れませんが、著しく腫大すると腹部の左上に触れるようになります。脾腫自体は症状を引き起こさないことも多く、健康診断の超音波検査などで偶然発見されるケースもあります。

「縁の下の力持ち」としての脾臓

脾臓は心臓・肺・肝臓・腎臓と比べると一般的な知名度が低く、「体の中で最も地味な臓器」と言われることがあります。しかし免疫機能・血液の調整・老廃物の除去という複数の重要な役割を静かに担い続けているという点で、「縁の下の力持ち(えんのしたのちからもち)」という日本語の慣用表現がよく当てはまる臓器です。「脾臓(ひぞう)」が「秘蔵(ひぞう)」と同音であることは、身体の中で静かに仕事をし続けるこの臓器のあり方を偶然にも言い表しているといえるかもしれません。