「いくら」の語源はロシア語――北海道から広まったサーモンの卵の名前


1. 「いくら」の語源はロシア語

「いくら」の語源はロシア語の「икра(イクラ)」です。ロシア語で「икра」は魚の卵全般を指す言葉で、キャビア(チョウザメの卵)もサーモンの卵も「икра」と呼びます。この言葉が明治時代に北海道経由で日本に入り、サーモンの卵を指す「いくら」として定着しました。

2. 北海道の漁業とロシア人の関係

明治時代、北海道(特に道東・道北地方)では鮭漁が盛んで、ロシアとの交流が多くありました。ロシア人漁業者や商人が北海道に来訪・定住し、彼らが鮭の卵を「икра(イクラ)」と呼ぶのを日本人が聞き、そのまま「いくら」として取り入れたとされています。

3. 日本に入る前の「いくら」

ロシアでは「икра」はチョウザメの卵(キャビア)を最上のものとし、鮭の卵は「красная икра(クラースナヤ・イクラ=赤いイクラ)」と呼ばれていました。日本では鮭の卵に限定して「いくら」という名が定着したため、ロシア語のニュアンスとは少しずれがあります。

4. 「いくら」と「すじこ」の違い

「いくら」と「すじこ(筋子)」はどちらも鮭の卵ですが、加工の状態が違います。「すじこ」は卵巣膜に包まれたままの状態で塩漬けにしたもの、「いくら」は卵巣膜をほぐして一粒一粒バラバラにし、醤油や塩で漬けたものです。「すじこ」の名前は卵巣の筋(膜)が残っていることから来ています。

5. 「いくら」が全国に広まったのは戦後

「いくら」が全国的に広まったのは戦後のことです。冷蔵・輸送技術の発達により北海道産の鮭卵が全国に流通できるようになり、「いくら醤油漬け」が寿司ネタや丼の具として人気を集めました。「いくら丼(いくらどん)」は北海道の郷土食として定着しています。

6. 「いくら」の漢字はない

「いくら」はロシア語由来の外来語のため、漢字表記がありません。カタカナで「イクラ」と書かれることも多く、寿司屋のメニューや食品パッケージでは「イクラ」表記が一般的です。「鮭の卵」「鮭卵(さけたまご)」と書くことはありますが、「いくら」に対応する固有の漢字はありません。

7. 栄養価が高い食材

「いくら」は栄養価の高い食材として知られています。DHA・EPAなどのオメガ3脂肪酸、ビタミンD、ビタミンB12、タンパク質が豊富に含まれています。一方でコレステロールも多いため、食べ過ぎには注意が必要です。鮮やかなオレンジ色はアスタキサンチンという抗酸化物質によるものです。

8. 「いくら」の値段が高い理由

「いくら」は秋鮭の産卵期(9〜11月)に限られた期間しか取れないため、希少性があります。また、卵をほぐして洗浄・選別・味付けする工程に手間がかかることも価格に反映されています。北海道の秋の風物詩として、道内では「生いくらの醤油漬け」を家庭で作る習慣が今も残っています。

9. 世界の「いくら」事情

ロシアでは「красная икра」として伝統的に黒パン(ライ麦パン)に乗せて食べる文化があります。北欧でも鮭の卵は食文化に根付いており、スウェーデンでは「löjrom(ロイロム)」というシロウオの卵が珍重されています。日本の「いくら」は独自の醤油・みりん漬けのスタイルが世界的に注目されています。

10. 「いくら」という日本語の偶然

「いくら」はロシア語由来の言葉ですが、日本語には「いくら(幾ら)」という「どのくらい・どれほど」を意味する疑問詞が別にあります。「いくらですか?」と値段を聞く言葉と音が全く同じなのは純粋な偶然です。外国人が「イクラはいくらですか?」と聞かれて混乱するという話は語学あるあるとして知られています。


「いくら」という小さな言葉に、明治期の北海道とロシアの交流の歴史が詰まっています。口に入れるたびに、遠いシベリアとの縁を思い浮かべてみてはいかがでしょうか。