「香川(かがわ)」の語源は?「鏡川」説・「香の川」説など諸説ある四国最小県の地名
1. 「香川」の語源——「鏡川(かがみがわ)」転訛説
「香川(かがわ)」の語源として有力視される説の一つが、「鏡川(かがみがわ)」が転じたというものです。現在の香川県高松市・坂出市付近には古来から「かがみ」に関連する地名が存在しており、水面が鏡のように穏やかな川を「鏡川(かがみがわ)」と呼んだものが「かがわ」に短縮されたという解釈です。ただし「かがみがわ」→「かがわ」への変化には中間段階の証拠が乏しく、語源として確定されているわけではありません。地名研究では有力な候補説の一つとして扱われています。
2. 「香川」の語源——「香の川」説・地形説
別の説として、文字通り**「香り(かお)の川」=香の川に由来するという解釈があります。周辺に芳香を持つ植物が茂る川、または神事で香を使う祭祀場に近い川を指したという考え方です。また地形説として、「かが(輝く・傾斜)」+「わ(川・輪)」**という解釈もあり、光を反射する穏やかな水域や、弧状の地形を「かがわ」と呼んだという説もあります。いずれも確定的な文献証拠に乏しく、「香川」という郡名・地名がいつ、どのような経緯で成立したかの詳細は現時点では明らかではありません。
3. 讃岐国——「さぬき」の語源と古代の歴史
香川県の旧国名讃岐国(さぬきのくに)の「さぬき」の語源にも諸説あります。「さ(接頭語)+ぬき(貫く)」=山並みを貫く地形という説、あるいは**「さ(狭)+ぬき(貫き)」**=狭い土地を貫く道という説などが挙げられます。讃岐国は律令制下で南海道に属し、古代から瀬戸内海の海上交通の要衝として機能していました。弘法大師空海(774〜835年)は讃岐国多度郡(現在の善通寺市付近)の生まれであり、真言宗の開祖として讃岐ゆかりの寺院が県内各地に残ります。
4. 「香川郡」の成立——国名ではなく郡名が県名に
注目すべき点として、「香川」はもともと讃岐国全体の名称ではなく、**讃岐国内の一郡の名称(香川郡)**でした。香川郡は現在の高松市南部から東部にかけての地域に相当します。廃藩置県(1871年)によって讃岐国に設置された県が、後に「香川県」と命名された際、讃岐国全体を指す名称に格上げされた形です。郡名が県名になった例は他にもありますが、旧国名「讃岐」ではなく郡名「香川」が選ばれた理由は、高松を中心とする地域の政治的な主導権が反映されたと考えられています。
5. 廃藩置県と香川県の成立——分合の歴史
香川県の成立は複雑な経緯をたどっています。1871年(明治4年)の廃藩置県で名東県(みょうどうけん)が設置され、阿波国(現徳島県)と讃岐国が同一の県に編入されました。その後1875年に讃岐国部分が分離して香川県が設置されましたが、1876年に愛媛県に合併されるという事態が起きています。1888年(明治21年)に再び愛媛県から分離して香川県が独立し、現在の形となりました。県の合併・分離が繰り返された香川県の成立史は、明治初期の地方行政の試行錯誤を象徴しています。
6. 四国最小県——面積と人口の特徴
香川県は四国4県の中で最も面積が小さく、都道府県別でも全国で2番目に小さい面積(約1,877平方km)を持ちます。最小は大阪府で、香川県はそれに次ぎます。瀬戸内海に面した温暖な気候と讃岐平野の豊かな農地を持つ一方、「水不足」が慢性的な課題でもあります。県内には大きな河川が少なく、古来よりため池を利用した農業が発達しました。ため池の数は全国最多水準であり、讃岐平野のため池は香川の農業と景観を特徴づける要素です。
7. うどん県——讃岐うどんと地名ブランド
香川県は2012年に**「うどん県」**という非公式の別称でのPRキャンペーンを実施し、全国的な話題を呼びました。讃岐うどんは小麦粉・塩・水を原料とするコシの強い麺が特徴で、江戸時代から讃岐の名物として知られています。香川県内にはうどん店の数が人口比で全国的にも際立って多く、「うどん屋巡り」が県内の観光様式の一つになっています。「讃岐うどん」という地名ブランドは地理的表示制度の対象にもなっており、産地名称として保護されています。
8. 金刀比羅宮——「こんぴらさん」の語源
香川県仲多度郡琴平町に鎮座する**金刀比羅宮(ことひらぐう)**は「こんぴらさん」の愛称で広く知られます。「金刀比羅」の読み「ことひら」は地名「琴平(ことひら)」に由来し、「こんぴら」はサンスクリット語の「クンビーラ(Kumbhīra)」——ガンジス川のワニの神格化——に由来するという説があります。江戸時代に「こんぴら参り」は伊勢参りと並ぶ庶民の一大信仰の旅となり、瀬戸内海の海上交通を通じて全国から参拝者が訪れました。参道の石段は785段(奥社まで1,368段)あることで有名です。
9. 小豆島——「しょうどしま」の語源と文化
瀬戸内海に浮かぶ小豆島(しょうどしま)は香川県に属する島で、面積約153平方kmは瀬戸内海では淡路島に次ぐ大きさです。「しょうど」の語源については「小豆(あずき)=小さな島々が連なる」という解釈や、古代に小豆が産出した土地という説があります。島は400年以上の歴史を持つしょうゆ醸造とオリーブ栽培(日本初の試験栽培地)で知られます。作家壺井栄の小説「二十四の瞳」の舞台としても名高く、作品に描かれた岬の分教場が観光地として保存されています。
10. 「香川」という名の定着——郡名から県名へ
「香川」という地名が一郡の名称から県全体の名称となった背景には、明治政府の地方行政再編という歴史的文脈があります。讃岐という旧国名は歴史的重みを持ちながらも、新時代の県名としては「香川」が選択されました。「讃岐県」ではなく「香川県」となったことで、現代では「讃岐うどん」(産品・文化のブランド)と「香川県」(行政区域)という二重の地名が並立しています。語源も確定されていない一郡の名称が、四国の一県を代表する名称として定着した例として、日本の地名史の中でも興味深い事例です。
語源に複数の説が並立する「香川」は、讃岐国という古い国名を内包しながら、うどん・金刀比羅宮・オリーブ・小豆島という個性豊かな文化を育んできた四国最小県の名前です。