「草津」の地名の由来は硫黄の臭い?群馬と滋賀、同じ名前の異なる歴史
1. 「草津」の語源:「くさ(臭)」+「つ(津)」
「草津」の最も有力な語源は「臭い津(にほいのする湊・水辺)」です。「くさ」は現代語の「臭い」に通じる「匂い・臭気」を意味し、「つ」は古語で港・湊・水が集まる場所を指します。硫黄を含む温泉が大量に湧き出る地では、独特の硫黄臭が漂います。その臭気が立ち込める湧出地を「くさつ(臭つ)」と呼んだのが転じて「草津」になったとされています。
2. 「津(つ)」は水の集まる地を意味する
「津」は古代日本語で、川の合流点・海岸の入り江・港など、水が集まる場所を広く指す言葉です。「難波津」「住吉津」など、古代の港や水辺の地名に多く見られます。草津温泉の場合、温泉水が大量に湧き出て流れる場所そのものが「水の集まる地」であり、その水が硫黄の臭いを帯びていたことから「くさつ」の名が生まれたと考えられます。
3. 「草が生える津」説もある
語源の別説として、湿地帯や川辺に草が生い茂る場所を「草津(くさつ)」と呼んだというものがあります。「草む(くさむ)場所の湊」という解釈で、草津という地名を持つ場所が日本各地に複数存在することの説明としては自然です。ただし、群馬・草津温泉の場合は硫黄の臭気との関連が強く、「臭津」説の方が有力とされています。
4. 草津温泉(群馬県)の歴史
群馬県吾妻郡草津町にある草津温泉は、日本を代表する名湯として古来から知られてきました。文献上の初見は古く、奈良時代の書物に「上野国の温泉」として記録があるとされます。江戸時代には徳川家康が草津温泉を訪れたとも伝えられ、湯治場として全国から人々が集まるようになりました。
5. 「湯畑」と大量の湯量
草津温泉のシンボルである「湯畑(ゆばたけ)」は、毎分4000リットルを超える温泉が自噴する国内最大級の自然湧出源泉です。この湯量と強酸性(pH2前後)の泉質が、古来から「草津の湯は万病に効く」と言われた理由です。硫黄の臭いとともに立ち上る湯けむりは、地名の語源を今に伝えています。
6. 「時間湯」という独特の入浴文化
草津温泉には「時間湯(じかんゆ)」という伝統的な入浴方法があります。湯長(ゆちょう)と呼ばれる指導者が立ち会い、湯もみと呼ばれる板で湯を冷ます儀式の後、3分間の短時間入浴を複数回繰り返すもの。強酸性の高温泉に長時間浸かることができないため、生まれた知恵です。現在も湯もみショーとして観光客に公開されています。
7. 草津温泉が「治せない病は恋の病だけ」と言われた理由
「草津よいとこ、一度はおいで。ドッコイショ。お湯の中にも花が咲くよ」という草津節で有名なように、草津温泉は「草津の湯は恋の病以外は何でも治す」という言い伝えで知られます。強酸性の泉質が持つ殺菌・消毒作用が多くの皮膚病や慢性疾患に効果をあげたことから、この評判が生まれたとされています。
8. 草津温泉と草津町(群馬)の地理
草津町は群馬県の北西部、標高約1200メートルの高地に位置します。周囲は本白根山・草津白根山などの火山群に囲まれており、これらの火山活動が豊富な温泉の供給源となっています。草津白根山の湯釜は強酸性のエメラルドグリーンの火口湖として有名で、周辺は活火山のため立入規制が設けられることもあります。
9. 草津(滋賀県)は東海道の宿場町
群馬の草津とはまったく異なる成り立ちを持つのが、滋賀県草津市です。こちらの「草津」も「くさ(臭)+つ(津)」を語源とする説がありますが、湿地に草が生い茂る入江という「草の津」説も有力です。滋賀の草津は琵琶湖南岸に位置し、東海道と中山道が合流する交通の要衝として江戸時代に栄えた宿場町です。現在も草津宿の本陣が国の史跡として残っています。
10. 同名でも全く異なる二つの草津
群馬の草津温泉と滋賀の草津市は、同じ「草津」でありながら成り立ちが大きく異なります。群馬の草津は硫黄の臭気が漂う火山性温泉地、滋賀の草津は琵琶湖の水辺に栄えた宿場町・商業都市です。語源の「くさ(臭あるいは草)+つ(津)」という構造は共通していますが、それぞれの「くさ」と「つ」が指す実態は地形と環境によって異なります。郵便番号が「草津」で始まるものが複数の都市にまたがるため、今でも住所の取り違いが起きることがあります。
硫黄の臭いが湧き立つ火山の麓から生まれた地名「草津」は、古代の人々が自然の臭気をそのまま地名に刻んだ生きた証です。同じ地名を持つ二つの町が全く異なる歴史を歩んできたことは、地名の奥深さを改めて教えてくれます。