「持ってる」の語源 運を"持っている"という表現はいつから?


1. 「持つ」の原義は「手に取る」

「持つ」の語源は古語の「もつ」で、手で物をつかんで支えることを意味していました。「手に持つ」「荷を持つ」のような物理的な所持が原義であり、奈良時代の文献からすでに使われていた基本的な動詞です。

2. 「気持ち」「心持ち」への意味拡張

「持つ」は早い時期から物理的な所持だけでなく、抽象的な概念にも使われるようになりました。「気持ち(気を持つ)」「心持ち(心を持つ)」「考えを持つ」「希望を持つ」など、目に見えないものを保有するという比喩的な用法が発達していきました。

3. 「持ってる=運がある」は2000年代から広まった

「あの人は持ってる」のように運やツキを表す用法が広く知られるようになったのは、2000年代以降のことです。特にスポーツ選手が決定的な場面で結果を出したときに「持ってる選手だ」と評されるようになり、メディアを通じて一般に広まりました。

4. 2009年のプロ野球が転機に

「持ってる」の流行に大きく貢献したのは、プロ野球の場面だとされています。重要な試合で劇的な活躍をした選手が「自分は持ってると思います」と発言したことが話題となり、この表現が一気に広まったとされています。

5. 「持ってる」と「持ってない」は対義語

「持ってる」が運の良さを表すのに対し、「持ってない」は運に見放されていることを表します。「あと一歩で逃したのは持ってない」のように、実力はあるのに結果が伴わない状況を表現する言葉として定着しました。

6. 英語の “have it” との類似

英語にも「She has it」「He’s got it」のように、特別な魅力や能力を「持っている」と表現する言い方があります。具体的に何を持っているかは明示せず、漠然とした才能やオーラを指す点で、日本語の「持ってる」と似た構造です。

7. 「物持ちがいい」は別の意味

「物持ちがいい」は物を大切に長く使うことを意味し、「持ってる」の運がある用法とは異なります。同じ「持つ」から派生した表現でも、組み合わせる言葉によって全く違う意味になるのが日本語の特徴です。

8. 「持ち前」は生まれつきの性質

「持ち前の明るさ」のように使う「持ち前」は、生まれながらに備わっている性質を意味します。「持っている」ものが運やツキではなく、本人の本質的な資質を指している点で、「持ってる」とは微妙にニュアンスが異なります。

9. 若者言葉から一般語へ

「持ってる」の運の用法は、もともと若者やスポーツファンの間で使われていた表現でしたが、現在ではテレビのバラエティ番組やニュース、日常会話でも幅広い世代に使われるようになっています。新しい意味が短期間で定着した好例です。

10. 日本語の「持つ」は多義語の王様

「持つ」は日本語でもっとも多義的な動詞の一つです。「物を持つ」「関心を持つ」「責任を持つ」「長持ちする」「場が持つ」「持ちつ持たれつ」など、数十の異なる意味や用法を持ち、今もなお新しい意味が生まれ続けている生きた言葉です。


「手に取る」という原義から出発した「持つ」が、千年以上の時を経て「運がある」という意味まで獲得した「持ってる」。日本語の動詞が持つ柔軟な拡張力を体現する言葉です。