「なおざり」の語源――「おざなり」と混同されがちな、軽んじることの言葉
1. 「なおざり」とはどういう意味か
「なおざり(等閑)」は、物事を真剣に取り組まず、いい加減に放置することを意味します。「なおざりにする」「なおざりにされた問題」のように使い、「軽んじる・おろそかにする・ほったらかしにする」というニュアンスです。漢字で「等閑」と書くことも覚えておくと理解が深まります。
2. 語源は古語の「なほ」と「ざり」
「なおざり」の語源は古語にさかのぼります。「なほ(猶・尚)」は「そのまま・ただそれだけ」という意味の副詞で、「ざり」は存在・状態を表す「あり」の打消し形「あらず→ざり」が変化したものです。合わせると「ただそのままで、特別な動きがない状態」→「積極的に取り組まないこと」という意味になりました。
3. 平安時代から使われてきた言葉
「なおざり」は平安時代の文献にすでに登場する古い言葉です。『枕草子』や『源氏物語』にも「なほざりに」という用例があり、当時から「おろそかに扱う」という意味で使われていました。長い歴史を持つ語彙です。
4. 「おざなり」との混同
「なおざり」と最も混同されやすい言葉が「おざなり(御座なり)」です。どちらも「いい加減」という意味ですが、ニュアンスが異なります。「おざなり」は「その場しのぎに一応やっておく」(形だけはやる)、「なおざり」は「放置・無視してまともに取り組まない」(そもそもやらない)という違いがあります。
5. 「おざなり」の語源
「おざなり」は「御座(おざ)」+「なり」から来ています。「御座」は宴席や公式の場のことで、「その場(御座)の体裁だけ整えること」→「場当たり的・その場しのぎ」という意味になりました。江戸時代の宴席文化を背景に生まれた言葉です。
6. 漢字「等閑」の意味
「なおざり」の漢字表記「等閑(とうかん)」は、中国語由来の熟語です。「等」は「同じ・なみ」、「閑」は「のんびりした・手を抜いた」という意味で、「何でもないことと同じように扱う」→「軽視する・おろそかにする」という意味です。現代では「等閑視(とうかんし)する」という表現でも使われます。
7. 「等閑に付す」という表現
「等閑に付す(とうかんにふす)」は「なおざりにする」の文語的な言い方です。問題や議題を真剣に取り上げずに放置することを指し、政治・学術的な文脈でよく使われます。「この問題を等閑に付すことはできない」のような表現で登場します。
8. 「なおざり」の反対語
「なおざり」の反対語は「真剣(しんけん)」「丁寧(ていねい)」「誠実(せいじつ)」などです。また、「おろそかにしない」という意味で「ゆるがせにしない」という古めかしい表現もあります。「ゆるがせ」も「ゆるやかに過ごす→おろそかにする」という意味で「なおざり」に近い言葉です。
9. 現代での使われ方
現代語では「なおざりにする」の形でよく使われます。「健康をなおざりにしてきた」「安全対策がなおざりにされていた」のように、本来向き合うべきことを放置・軽視した結果を指摘する文脈で多く見られます。ビジネス文書や報道でも使われる、やや硬い表現です。
10. 「なおざり」「おざなり」の覚え方
二語の違いの覚え方として「なおざり=何もしない」「おざなり=お茶を濁してやる」という整理が役立ちます。なおざりは「まだやっていない」、おざなりは「やったふりをした」。どちらも不誠実さを表しますが、行動の有無が違います。
「なほ(そのまま)+ざり(ない)」という古語の組み合わせから生まれた「なおざり」。平安の言葉が現代まで生き続け、今も「きちんと向き合わない」という人の性を言い当てています。