「鶏(にわとり)」の語源は?〜「庭つ鳥」に由来し、神話にも登場する身近な鳥〜
「鶏(にわとり)」という言葉の起源
「にわとり」は、日本人にとって卵や肉として最も身近な家禽のひとつであり、その名は古くから「庭で飼う鳥」を指す言葉に由来するとされている。具体的には「庭つ鳥(にわつとり)」という古語が変化したものと考えられており、鳴き声にちなむ古名や、天岩戸神話への登場など、その背景にはいくつもの興味深いエピソードが伝えられている。
語源説:「庭で飼う鳥」を意味する「庭つ鳥」
有力な説によれば、「にわとり」は「ニハツトリ(庭つ鳥)」という古語に由来する。この「つ」は現代語の「の」にあたる古い格助詞で、「庭の鳥」を意味していたという。『万葉集』などにも「庭つ鳥」という表現が見られ、家の庭先で飼われていたことがそのまま名前になったとされる。この「ニハツトリ」から助詞の「つ」が落ち、「ニハトリ」を経て現在の「ニワトリ」になったと説明されている。なお、これに対して野生の鳥は「ノツトリ(野つ鳥)」と呼ばれていたとされ、「庭」と「野」を対比させる呼び分けがあったことがうかがえる。
鳴き声に由来するとされる古名「カケ」
「にわとり」にはもうひとつ、鳴き声に由来するとされる古い呼び名がある。「カケ」がそれで、雄鶏の鳴き声を写した言葉だとされている。平安時代の神楽歌には「鶏はかけろと鳴きぬなり」という一節も伝わっており、当時すでに鳴き声を「かけろ」と聞きなしていたことがわかる。江戸時代の文献には「くたかけ」という古い呼称も見られ、家の近くで飼われる鳥として「イヘツトリ(家つ鳥)」という言い方もあったとされるが、記録に残る用例は「ニハツトリ」の方が圧倒的に多く、こちらが現在の呼び名として定着していったと考えられている。
漢字「鶏」に込められた意味
「鶏」という漢字は、「奚」と「鳥」を組み合わせた会意兼形声文字とされる。「奚」は手で糸をつかむ様子と人の姿を組み合わせた象形で、もともと「つながれた人、召し使い」を意味していたという。これに「鳥」を加えることで、「つなぎとめておく鳥」、すなわち人に飼われる家禽としての「にわとり」を表す文字になったと説明されている。ちなみに「鷄」は「鶏」の旧字体にあたる。
セキショクヤケイに由来するとされる鶏の家畜化
生物としてのニワトリの起源については、東南アジアや中国大陸に生息する野生のキジ科の鳥「セキショクヤケイ」が祖先種であると強く示唆されており、分子系統学的な研究でもこの説が有力とされている。ただし、別の野生種であるハイイロヤケイの遺伝子も見つかっているとの報告があり、複数の野生種が交雑して生まれたとする説もある。家畜化がいつどこで始まったかについても、インドから東南アジア、中国大陸にかけての地域を起源とする説など複数の見方があり、古い時代にはまず闘鶏用や時刻を知らせる目的で飼われていたとされる。
弥生時代の日本列島への伝来
日本列島にニワトリが伝わった時期についても諸説あるが、考古学的には弥生時代の遺跡からニワトリの骨とされる出土例が報告されており、少なくともこの頃には日本列島にもたらされていたと考えられている。伝来のルートについても、中国大陸から直接、あるいは朝鮮半島や台湾、南西諸島を経由したなど複数の説が示されている。古墳時代になると、ニワトリをかたどった埴輪も作られるようになり、当時すでに人々の暮らしに身近な存在だったことがうかがえる。
天照大神を岩戸から呼び出した「常世の長鳴鳥」
ニワトリは『古事記』の天岩戸神話にも登場する。天照大神が岩屋に隠れて世界が闇に包まれたとき、八百万の神々は「常世の長鳴鳥(とこよのながなきどり)」を集めて鳴かせ、夜明けを告げさせたと伝えられている。夜明けとともに鳴くニワトリの習性が、太陽神を呼び戻す儀式と結び付けられたのだと考えられる。この神話に基づき、伊勢神宮では「神鶏」と呼ばれるニワトリが飼われており、式年遷宮の神事でも鶏の鳴き声を模した所作が行われているとされる。
時告げの鳥から食用・観賞用へ-役割の変遷
古くは夜明けを告げる時計代わりとして重宝されていたニワトリだが、時代とともにその役割は少しずつ変化していったとされる。戦国時代以降は娯楽や占いを目的とした闘鶏用として飼育される例も見られるようになった。江戸時代後期になると、卵売りの行商も現れるなど鶏肉や卵を口にする習慣が庶民の間にも徐々に広まり、長い尾羽を持つ長尾鶏や小型の「ちゃぼ」など、観賞を目的とした品種も愛好されるようになったという。
「かしわ」という呼び名と「鶏」が今に伝えるもの
関西地方を中心に、鶏肉を指して「かしわ」と呼ぶ習慣が今も残っている。庭先で人とともに暮らしてきたニワトリは、夜明けを告げる神聖な鳥として神話に名を残す一方で、時代が下るにつれて食用や観賞用としても親しまれ、地域ごとの呼び名まで生み出してきた。「庭つ鳥」という素朴な由来を持つこの言葉には、庭先という身近な場所で人と鳥が寄り添って暮らしてきた長い歴史が刻まれている。