「さくらんぼ」の語源は?桜の坊という愛称に込められた命名の由来
「さくらんぼ」は世界でも珍しい名前
さくらんぼは英語では cherry、フランス語では cerise、中国語では樱桃(ying tao)と呼ばれます。世界各地の呼び名は音的に共通性がある(いずれもラテン語の cerasus に由来)のに対し、日本語の「さくらんぼ」はまったく独自の名前です。では、なぜ日本では「さくらんぼ」と呼ぶのでしょうか。
「桜の坊(さくらのぼう)」が語源
「さくらんぼ」の語源は「桜の坊(さくらのぼう)」の縮約形です。「坊(ぼう)」は小さいものや愛らしいものを指す接尾語で、「ぼうや(坊や)」「でんぼう(伝法)」「こぞう(小僧)」のように愛称的・愛玩的なニュアンスで使われます。桜の木に実る小さな赤い果実を、可愛らしいものとして「桜の坊(小さな桜の実)」と呼んだのが始まりです。
縮約による音変化
「さくらのぼう」から「さくらんぼ」への変化は次のように起きました。「さくらの(桜の)+ぼう(坊)」が口語で縮まり、「の」が「ん」に変化(連声・撥音化)して「さくらんぼ」になりました。日本語では語中の「の」が「ん」に変化する現象(例:「あなた→あんた」「これのだ→こんだ」)は口語でよく見られ、「さくらんぼ」もこの音変化の典型例です。
桜の実は古くから食べられていた
日本人が桜を愛でてきた歴史は長いですが、桜の木は花だけでなく実も食用にされてきました。ただし、一般的な桜(ソメイヨシノなど)の実は小さくて渋みが強く食用には向きません。食用として栽培されているさくらんぼは「西洋実桜(セイヨウミザクラ)」という品種で、日本には明治時代に伝わりました。「さくらんぼ」という呼び名は伝来以前から野生の桜の実に使われていた語が、後から来た食用品種にも当てられたとされます。
山形県が誇るさくらんぼ産地
日本のさくらんぼ生産量の約7割を山形県が占めており、「さくらんぼの産地」として全国に知られています。山形県では明治時代から本格的な栽培が始まり、「佐藤錦(さとうにしき)」「紅秀峰(べにしゅうほう)」「山形美人」などのブランド品種が開発されてきました。「佐藤錦」は佐藤栄助氏が大正時代に開発した品種で、甘みと酸味のバランスが絶妙とされるさくらんぼの王様です。
国産さくらんぼの旬と価格
国産さくらんぼの旬は6月から7月上旬の短い期間です。傷みやすく収穫に手間がかかるため高価で、高級フルーツとして贈答用にも使われます。山形産の「佐藤錦」は1粒数百円になることもあり、「高嶺の花」のフルーツとして位置づけられています。ハウス栽培による早出し品もありますが、露地栽培の旬のさくらんぼの甘さ・鮮度にはかなわないとされます。
チェリーとさくらんぼの使い分け
日本語では「チェリー(cherry)」と「さくらんぼ」の両方が使われますが、使い分けがあります。一般に「さくらんぼ」は果物として食べる国産品種を指し、「チェリー」はより広い意味(加工品・輸入品を含む)や英語圏文化的な文脈で使われます。カクテルの「マラスキーノチェリー」、「チェリーパイ」など洋菓子・洋食ではチェリーが使われ、「さくらんぼ飴」「さくらんぼ狩り」などは和風的な文脈です。
「さくらんぼ」が体現する日本語の命名センス
「桜の坊」という名前は、あの小さくて可愛らしい赤い果実をまさに言い得た命名です。英語の cherry がギリシャ・ラテン語の地名(現トルコの都市 Giresun の古名 Kerasous)に由来する地理的な名前であるのに対し、日本語の「さくらんぼ」は桜という日本人にとって最も愛着のある樹木と「坊」という愛称を組み合わせた、情緒あふれる命名です。語源にある「坊(ぼう)」という愛称が、さくらんぼへの日本人の親しみをよく表しています。