「田作り(たづくり)」の語源は?おせち料理の縁起と語源の雑学


「田作り」の語源——田を作るいわしの肥料

「田作り(たづくり)」の語源は「田(た)を作る(つくる)」という意味に由来します。「田作り」に使われる小いわし(カタクチイワシの幼魚を干したもの)は、江戸時代以前から農業の肥料として田畑に使われていました。「いわしを田畑の肥料として使うことで豊かな実りをもたらす→田を作るもの→田作り」という意味の転化で、食材としての「田作り(佃煮にしたカタクチイワシ)」の名称になったとされます。肥料が料理の名前になるという珍しい語源です。

「ごまめ(五万米)」という別名の縁起

「田作り」は「ごまめ(五万米)」という別名でも呼ばれます。「ごまめ」の語源は「五万米(ごまんまい)」の省略形とする説が有力で、「いわしを肥料にすると稲が豊作になり五万俵・五万米もの米が収穫できる」という縁起に由来するとされます。「五万米」は「ごまんまい→ごまんめ→ごまめ」と音が変化したとする解釈です。「ごまめ」という語は関西を中心に広く使われ、「田作り(関東)」と「ごまめ(関西)」という地域による呼称の違いも見られます。

おせち料理における田作りの位置づけ

「田作り」はおせち料理の定番の一つで、重箱の中に欠かせない縁起物です。おせち料理は「五穀豊穣・子孫繁栄・長寿・商売繁盛」などの願いを込めた料理の集まりで、それぞれの食材に縁起の意味が込められています。「田作り(ごまめ)」には「五穀豊穣・豊作祈願」の意味があり、農業国家としての日本の歴史と食文化が凝縮された料理です。「正月料理に田作りを食べる」という習慣は、稲作と深く結びついた日本の暮らしの名残を現代に伝えています。

田作りに使われる魚——カタクチイワシの幼魚

「田作り」に使われる食材は「カタクチイワシの幼魚を素干しにしたもの」です。「カタクチイワシ(片口鰯)」は体長15センチ程度の小さなイワシで、その幼魚を乾燥させたものを「煮干し(にぼし)」や「だし用いりこ」とは別に、田作り用の食材として使います。「ごまめ(田作り)」用のカタクチイワシは幼魚のため5センチ以下と小さく、頭ごと丸ごと食べられます。「小骨ごと食べられる→カルシウムが豊富」という栄養面も現代では注目されています。

田作りの調理法——甘辛い飴がけ

「田作り」の一般的な調理法は「素干しのカタクチイワシをフライパンで乾煎りし、砂糖・醤油・みりん・酒で作った甘辛いたれを絡める」というものです。「飴がけ(あめがけ)」とも呼ばれ、たれが冷えて固まることでパリパリとした食感が生まれます。「白ごまを振りかける」「唐辛子で辛みをつける」「ナッツを加える」などのアレンジもあります。甘辛い味付けで保存性が高く、冷蔵庫で1〜2週間程度保存できるため、おせち料理に適した料理です。

「煮干し」「いりこ」「ちりめんじゃこ」との違い

「田作り(ごまめ)」と混同されやすい食材に「煮干し(にぼし)」「いりこ」「ちりめんじゃこ」があります。「煮干し」は「茹でてから干したカタクチイワシ」でだし取り用に使われます。「いりこ」は煮干しの別名(主に西日本の呼称)です。「ちりめんじゃこ」は「カタクチイワシ・シラスの仔魚(しらす)を茹でて干したもの」でご飯のおかずとして使われます。「田作り(ごまめ)」は「素干し(茹でずに乾燥)したカタクチイワシの幼魚」という点で、これらと製法・用途が異なります。

全国各地のごまめ・田作りの違い

「田作り(ごまめ)」の味付けや材料は地域によって異なります。「関東風」は甘辛く濃いめの飴がけが特徴、「関西風」はやや薄味でさっぱりとした仕上がりが多いとされます。四国・九州では「ごまめ」という呼称が定着しており、地域ごとに家庭の味・祖母の味として受け継がれています。近年はスーパーで市販の田作りが手軽に入手できるようになりましたが、「手作りのごまめ」にこだわる家庭も多く、おせちの中でも「家庭の味」が残りやすい料理の一つです。

縁起物に込められた農業の記憶

「田作り(ごまめ)」の語源が「田畑の肥料としてのいわし」にあるという事実は、日本が農業国家として歩んできた歴史の記憶を食の中に残していることを示しています。「肥料→豊作→縁起物→正月料理」という変容の過程で、「いわしを使って豊かな実りを得る」という農民の願いが「おせち料理の縁起物」として結晶化しました。現代では農業との直接的な接点を持つ人が少なくなりましたが、「田作り」をおせちで食べる習慣は「稲作と共に生きた日本人の祈り」を食卓に呼び戻す行為として、今も生き続けています。