「亀戸(かめいど)」の語源は?「亀の井戸(かめのいど)」から生まれた下町の地名の由来


「亀の戸(門)」か「亀の井戸」か

「亀戸(かめいど)」の語源には複数の説がありますが、有力なのは「亀の形をした地形の島に掘られた井戸のある場所」という説です。江戸時代初期、亀戸のあたりは隅田川の中洲にできた小さな島状の土地で、その地形が亀の甲羅に似た砂洲だったとされます。そこに良質な井戸があったことから「亀の井戸」と呼ばれ、「亀井戸」を経て「亀戸」という表記に落ち着いたという流れです。別説として、亀の形をした入口や門を意味する「亀の戸」に由来するという説も伝わっています。

梅と藤の名所「亀戸天神」

亀戸天神社は、学問の神様として知られる菅原道真を祀る神社で、「亀戸天神」の通称で親しまれています。1661年(寛文元年)の創建で、九州の太宰府天満宮を本社として勧請したことから、本社と合わせて「東の太宰府」と称されることもあります。2月の梅まつり、4〜5月の藤まつりで知られ、なかでも亀戸天神の藤は江戸時代から名所として多くの浮世絵や俳句に詠まれてきた、東京を代表する花の名所です。

幻の江戸野菜「亀戸大根」

亀戸大根は、亀戸周辺で江戸時代から栽培されてきた細くて小ぶりな白大根で、「江戸東京野菜」の一つに数えられています。一般的な大根より細く短く、先端が細くなった形で皮が薄く、辛みと旨みが強いのが特徴で、「辛大根」「田舎大根」とも呼ばれてきました。明治以降、品種改良された青首大根に押されて栽培は激減しましたが、2000年代以降の江戸東京野菜復活運動によって数少ない農家が栽培を続けており、春の亀戸天神のお膝元で販売される幻の江戸野菜として注目されています。

農村から下町へ変わった歴史

亀戸の歴史は、江戸時代初期の隅田川中洲にあった小さな農村から始まります。17世紀に江戸の街づくりが進み、隅田川東側(現在の江東区・墨田区一帯)が開発されるなかで、亀戸も農村から町人の暮らす町へと姿を変えていきました。1661年に亀戸天神が創建されると参拝者を集める門前町として発展し、江戸の東の行楽地として賑わうようになります。明治・大正・昭和と工業化が進む東京東部の下町文化のなかで、亀戸は職人や工場労働者、商人が暮らす街として発展しました。

東京名物になった「亀戸餃子」

亀戸餃子は、1954年(昭和29年)創業の老舗餃子専門店「亀戸餃子」が提供する焼き餃子です。メニューは一皿一種類の焼き餃子のみで、追加注文が基本という潔いスタイルの、行列のできる下町の名店として知られています。小ぶりで皮が薄く中がジューシーな餃子と、昭和の雰囲気を残す店内、手頃な価格が下町グルメとして人気を集め、亀戸天神への参拝と組み合わせた下町観光の定番コースにもなっています。

「亀」という漢字に込められた縁起

「亀」という漢字は、亀の甲羅・頭・足を横から見た形をそのまま描いた象形文字です。「鶴は千年、亀は万年」という言葉が示すとおり、亀は長寿・縁起・吉祥の象徴として日本・中国で古くから尊ばれてきました。亀の甲羅を焼いてできたひび割れで吉凶を占う「亀卜(きぼく)」は古代中国・日本で行われた占いの方法で、神聖で縁起のよい動物として地名・社名・姓などに広く用いられています。「亀戸」という地名に縁起のよい「亀」の字が含まれている点は、地形由来の名であると同時に、江戸時代の地名の縁起担ぎとも重なって受け止められてきました。

亀戸が属する江東区という地名

亀戸は東京都江東区に属する地区です。「江東区」は「隅田川の東の低地」を意味し、川・水辺を表す「江」と方角の「東」を組み合わせて生まれた区名です。江東区は東京23区の中で面積が最も大きい区の一つで、海抜ゼロメートル地帯が広がる水害リスクの高い低地という地形的特徴を持ちます。一方で、有明・豊洲・辰巳など2020年東京オリンピックの会場となった新しいスポーツ・文化施設の多くも、この江東区内に立地しています。

職人と工場が育てた下町文化

亀戸の下町文化は、明治・大正・昭和の近代化・工業化とともに形成されました。亀戸周辺には繊維・縫製・金属加工・食品加工などの中小工場が集積し、職人と町工場の街として発展します。人情や義理、気前のよさ、庶民的な食文化や祭り文化を重んじる下町の気風が根付き、亀戸天神の例大祭や藤まつりは氏神祭りとして地域コミュニティの結束を示してきました。2011年の東日本大震災後、「絆」という価値観が改めて見直されるなかで、亀戸のような下町のコミュニティの強さも注目を集めています。

東京一短い鉄道路線が走る街

亀戸の交通は、JR総武線と東武亀戸線が乗り入れる亀戸駅を中心に発展してきました。東武亀戸線は亀戸〜曳舟間わずか3.4kmの短距離路線で、東京でもっとも短い鉄道路線の一つに数えられます。朝のラッシュ時も2両編成のまま走る素朴な路線で、下町らしい風情を残しています。JR亀戸駅からは錦糸町・両国・新宿・東京方面へのアクセスもよく、下町の居住・観光・商業の拠点として機能しています。

「亀」を含む地名は全国に広がる

「亀」を含む地名は日本各地に分布しています。亀戸(東京)のほか、亀有(東京都葛飾区)、亀山(三重県)、亀岡(京都府)、亀田(新潟県など)、亀川(大分県別府市)などが挙げられ、長寿と縁起の象徴としての「亀」が地名に多く採用されてきたことがうかがえます。なかでも亀有は、漫画・アニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の舞台として全国的に有名になり、駅前には銅像も整備されています。

「亀の形の地形に掘られた井戸のある場所」を語源とする亀戸は、隅田川東岸の中洲から発展した下町の歴史を持つ地名です。亀戸天神の藤まつり、亀戸大根、亀戸餃子という三つの名物が象徴するように、学問・農業・食文化という江戸から続く下町文化の豊かさを今に伝えています。