「栗(くり)」の語源は?縄文時代から食べられてきた秋の味覚の名前の由来
栗は日本最古の食材のひとつ
栗(くり)は縄文時代から日本人が食してきた食材です。青森県の三内丸山遺跡では大規模なクリの木の栽培跡が発見されており、縄文人が意図的にクリを植えて管理していたことが明らかになっています。「くり」という語は非常に古くからある日本語で、万葉集にも「栗(くり)」を詠んだ歌が収録されています。秋の味覚として現代も親しまれる栗の語源はどこにあるのでしょうか。
「黒(くろ)」に由来するという説
最も広く知られる語源説は「黒(くろ)」が変化したという説です。栗のイガ(毬)の色や熟した果皮の色が黒っぽいことから、「くろいもの→くろ→くり」と変化したとする説です。確かに成熟した栗の外皮は暗い茶黒色で、木の実の中でも「暗色の実」として認識された可能性があります。「くり」の古形が「くろ」に近かったとする音韻変化の説明も可能ですが、確定的な証拠はありません。
「繰る(くる)」に由来するという説
もう一つの説は、「繰る(くる)」という動詞に由来するというものです。「繰る」は糸を巻き取る・繰り出す動作を表しますが、栗のイガを割ると実が「繰り出てくる」ようなイメージから命名されたという説です。栗は三角錐状の実がイガの中にきっちり収まっており、割れ目から実が現れる様子が「繰り出す」に見えるとも言われます。ただしこの説も確定的ではなく、語源研究では複数の説が並立しています。
アイヌ語・縄文語起源の可能性
「くり」は縄文語やアイヌ語に起源を持つ可能性も指摘されています。アイヌ語には「kuri」「kul」など類似した音を持つ語があり、縄文時代から重要な食材であったクリの名前が縄文語的な基層語として残ったとする考えもあります。日本語の食材・植物名には漢語・外来語でない固有の和語が多く、これらの中には縄文語的な語源を持つものが含まれると言語学的に推定されています。
万葉集と栗
万葉集には山上憶良の「銀も金も玉も何せむに まされる宝子にしかめやも」に続く「貧窮問答歌」の中に「栗」が登場します。また「田の畔の栗」「栗のおごりて」などの表現もあり、奈良時代にすでに栗は日常的な食材かつ詩的なモチーフとして定着していたことがわかります。万葉仮名では「久利(くり)」と表記されることもあり、当時の発音を示しています。
「くりきんとん(栗きんとん)」と正月文化
栗を使った代表的な和菓子に「栗きんとん(くりきんとん)」があります。おせち料理に欠かせない一品で、栗の甘露煮とさつまいもを合わせて金色に仕上げた料理です。「きんとん(金団)」は「金の団(かたまり)」という意味で、黄金色が財運・繁栄を象徴するとして正月のお祝い料理として定着しました。岐阜県中津川市・恵那市の「栗きんとん(栗だけを使った和菓子)」は別物で、茶巾絞りにした栗餡が秋の味覚として知られます。
「栗拾い」という秋の行楽
栗拾いは日本の秋を代表する行楽として親しまれています。栗林や農場で地面に落ちたイガ栗を拾う体験は、子供から大人まで楽しめる季節の行事です。「栗のイガ(毬)」に刺さらないよう軍手や竹ばさみを使いながら拾う様子が秋の風物詩となっています。栗の旬は9月から10月で、「芋・栗・なんきん(かぼちゃ)」は秋の代表的な甘みのある食材として並び称されます。
縄文時代から現代まで続く「くり」
「くり」という語が縄文時代から変わらず使われ続けているとすれば、これは日本語の中でも特に古い語彙の一つです。約5000年前に三内丸山の縄文人が栽培していたクリと、現代スーパーで売られているマロングラッセや栗ご飯の栗は、「くり」という同じ音で呼ばれ続けています。語源が確定しない謎を抱えながらも、「くり」は秋の味覚として日本人の食と言語に深く根ざした語として生き続けています。